みどみどえっくす

元NO.1風俗嬢がゲスに真面目にエロを語る

私と男の不思議な関係。

確か大学院を卒業したばかりの頃だから、24歳の時です。

 

街で一人の男に声をかけられて。

 

目も合わせずに

「あ〜ハイハイ、ナンパよね。

わかった、わかった。」

なんて思いながら左手で蝿を追い払う仕草をしたんだけど、全く引き下がらない。

私は帰宅途中で駐車場に向かっていたものだから

「車がバレると、厄介だな。」

って、だいぶ遠回りまでして。

すっかり暗くなった空に、灯り始める街のネオンが若干の恐怖心を煽る。

どこかカフェにでも入っちゃおうか、それとももう交番しかないよね、なんて思考が頭をグルグル。

そのうち段々と腹が立ってきて、これは一言言わないと気が済まないと初めて顔を見ると、途端目をそらせなくなった。

 

何だろうね。

アブノーマルの嗅覚っていうのは実に本能的で、一瞬にして

「あぁ、同族だわ。この人。」

なんて。

のちになって知るのは、まさにビンゴだったわけだけど。

 

彼の見た目は、もう誰が見てもサッパリ爽やか系のサラリーマン。

スーツも張りがあって綺麗に仕立ててあるし。

恐らく私が普通の女子であれば、恋に落ちるにはそんなに時間はかからないだろうな、っていう全体の仕上がり感。

まさに清潔感の塊で、仮にも見た目からは「こいつやべー奴だな」っていう情報は一切入ってこなかった。

 

私はそういう経験が初めてだったからとても不思議だったんだけど、何故か彼から目をそらせなくなったんだよね。

そして途端に彼の事が気になって仕方なくなった。

彼が話してる内容なんて全く頭に入って来なくて、話なんかより、彼の容姿なんかより、むしろ惹かれるのは彼の瞳の奥にある、若干陰のある暗鬱な悲しさ。

私は人を見る目が全くないと思うし、むしろ人と目を合わせたり接したりするのがとても苦手なんだけど、何故か彼のそれは色んな業を背負ってここまでやって来たんだろうなって、理屈じゃない何かをとても深く感じた。

気のせいだといいんだけど、なんて事すら思った。

 

自分の名誉の為だけに言うけれど、私は淫乱だし割とすぐに寝るけど、ナンパにホイホイ付いて行ってヤっちゃうってだけの味気ないセックスには更々興味がない。

そういうのは十代で終わってるし、普段はナンパには全く付いて行かないの。

 

だけど、彼だけは違ったわけね。

 

普段営業マンなんだろうねっていう、多分この人にエッチな事を語らせても全くエッチではないんだろうなぁ、なんて思わせる軽快な語り口は、実に私を不愉快にさせたんだけど、それでも何故か彼とセックスがしてみたいと素直に思った。

 

こういう目をした男は、どんなセックスをするんだろう。

それしか考えられなくなった。

 

「わぁ、良かった!

やっと話聞いてくれた(笑)」

と若干オーバー気味に笑う彼は、私より4つ上。

もちろん、独身。

 

一言目を交わしてから打ち解けるまでには、全く時間はかからなかった。

何せ、今度はこちらの方が彼の事が気になって仕方なくなっているので。

 

私は、今すぐ近くのカフェに入りませんか?と自分でも引くくらい強引だったんだけど、彼は笑って

「オーケー、オーケー、行こう。」

と、前を歩いてエスコートしてくれた。

 

私は彼に聞きたい事がそれはもう山ほどあったんだけど、何と聞いていいか分からずに、それに何を聞いていいか分からずに、もっともっと深い所を知りたかったんだけど、逆にただ彼の質問に答えるのに必死だった。

いくら何でも、まだそこまでの距離感ではなかったわけね。

 

学校を卒業したばかりだという事、卒業した大学の事、出身地、更には風俗嬢だと言う事、それはもう個人情報なんて垣根を越えに越えまくって、頭の悪い女だと思われようと何だろうと彼が知りたい事なら何でも答えた。

だけど、不思議とエッチな話はどこにも無かった。

ナンパってセックスが目的で、それ以上も以下も無いと思っていた私は、実に拍子抜け。

ナンパをされた事で逆にやる気満々になってる自分が、とても恥ずかしくなった。

 

二時間程話しただろうか。

彼は仕事でこちらに来ていて、住んでる場所は埼玉の大宮。

電車で帰ると言うし、もう遅い時間だったから連絡先だけ交換して別れた。

 

「楽しかった!また必ず話そう。」

タレ目で笑って手を振る彼の目の奥には、やっぱり少し、悲しみが込められている気がした。

 

毎日毎日、それこそ会話という会話は全く無く

「おはよう」

「やっと仕事が終わった」

「おやすみー」

なんていう、事務的なやり取りしか交わさなかったんだけど、何故か不思議な連帯感を感じてた。

 

初めて会った日から二週間後の土曜日、彼がプライベートでこちらまで来てくれる事になった。

 

「またこの前みたいに沢山話そう?」

メールにはそう綴られていた。

やはりエッチな話はどこにも無い。

不思議だったが、彼の真似をして

「オーケー、オーケー、話そう。」

とだけ返した。

 

その日も前回と同じカフェで、今度は4時間くらい。

私は予定があったから帰らなくてはいけなかったんだけど、何か大事なことを話すわけでもないけれど、タイムリミットさえ無ければいつまでも際限なく話せる間柄だな、と彼に手を振りながらそう感じた。

 

そしてそのまた次の3回目。

これは状況がだいぶ違った。

その時に来たメールはこう。

 

「今日はもっと、何というか、君とゆっくり話したい。

ホテル取ってもいい?」

 

三度目の正直でやっと来たわけね、なんてほくそ笑むんだけど、ここは冷静にね。

いつもの通り

「オーケー、オーケー、どうぞ。」

と、割と淡白に返したつもり。

 

ホテルなら現地集合でいっか、なんて、彼にホテル名と部屋番号を聞いて向かうわけだけど。

何故だか全く警戒心も緊張感も無かった。

むしろ、何時間話した所で全く合点がいかなかった「彼の瞳の奥にある、底知れない悲しみ」について、何か知れる事があるんじゃないかなって。

彼の事をもっと知りたいと思っていた私は、ずっとそればかり考えてた。

ホテルに着く頃には、何故だかもうセックスとかそんなんじゃなかった気がする。

 

だけど。

 

「前回より、ちょっと間空いちゃったよね。

久しぶりだね。

元気そうで安心した。」

 

そう言って迎え入れてくれた彼は、言葉とは裏腹に今度、瞳の奥だけじゃなく表情そのものが今にも壊れそうに冷たかった。

重く、鋭い感情に、ガラスの心を何度も何度も刺されているようで、苦痛で全く笑えない。

私にはそんな気持ちが、何故か手に取るようにわかった。

 

きっと何があったか聞くなんて、とても野暮なんだろう。

戸惑った私は口をひらけずに、ろくに返事も出来ず、黙って彼の横に腰を下ろした。

足が震えて、目も合わせられなかった。

 

お互いに何も話せない時間が続いて、多分、一時間くらい経ってから。

彼はいつもの口調よりだいぶトーンを落として、悲しそうに笑いながら話し出した。

 

「俺は、最初に君に声をかけた時はさ。

だいぶ頭がイかれてたんだよ。

自分でもドン引くくらい、君にしつこくしてしまったよね。

ごめんな。

その時の感情は、正直言葉で表せない。

だから、謝る事しか出来ないんだよ。

本当にごめん。

ずっと、怖い思いさせてごめんって、謝りたかった。

もちろん俺は、普段そういう事をする男じゃないの。

むしろ人に関わりたくないと思って生きてる。

だけど君が色んな話をしてくれて、俺も君に色んな事を聞いてさ。

そうしてく中で、確実に俺は君に惹かれてたんだよ。

綺麗だからとか、女性だからとか、そういう気持ちも確かに少しはあるか分からないけど、正直に言うと俺は君に人間を求め始めてる。

人として向き合ってほしいと思い始めてる。」

 

正直、頭が混乱した。

話の結末が宙を舞い、全く点が線になっていかない。

 

彼は続ける。

 

「俺は、大人になって家を出るまで、ずっと実の親と義理の親に虐待を受けてた。

肉体的虐待、精神的虐待、性的虐待

どれも耐え難かった。

中でも性的虐待は今でも根深い。

俺はだいぶ歪んでるの。

女性が怖い。女性が憎い。

殺したいくらい憎い。そしてやっぱり、だけど怖い。

でもこんな事言えるわけがないから、毎日、ならいっそ自分が死んでしまいてぇななんて思いながらも、今日も生きてる。

会社でヘラヘラ笑ってさ。

家に帰ったら絶望しかない。

不思議だよね、何でこんな俺が君に声なんてかけたんだろうね。

正直縋るような気持ちだったよ。どうしても。

君を見て、何故か自分の話を聞いてほしくてたまらなくなったんだよ。

なんか許してくれそうな気がした。

頭が悪そうとかじゃなくて。

まったく不思議だ。そして迷惑な話だ。」

 

そう言い終えると、彼はゆっくり、まるで何かを確かめるようにシャツを脱ぎ始めた。

私はその裸を見て、涙がこぼれた。

 

無数にある傷跡。

えぐられた肉体。

煙草を押し付けられた跡。

正直、吐きそうになった。

 

だけど私はそんな彼の裸を見て、とても美しいと思った。

私も歪んでいるのは百も承知なんです。

でも彼が歩まざるを得なかった人生が刻まれたその身体を、私はとても愛おしいと感じた。

 

彼はいつの間にか泣いてた。

悔しい、悲しい、寂しい、惨め、絶望、無念、屈辱、激情、嫌悪、もうとても言い表せない。

とても一緒くたに出来ないいくつもの底知れない感情が、鈍い痛みとなってのた打ち回り、ぶつかり合う彼の涙。

他人に自分のトラウマを見せる行為は、それ以上に自分の心もえぐられる。

その涙を見て、きっと決死の覚悟があって私に身体を見せてくれたのだと思うと、私は自分の人生全てを賭けてでも彼を守ってもいい、そんな事を思ってしまった。

 

それから数年は経っているけれど、未だ彼と一緒にいても、やはりエッチな話はどこにも無い。

しかし、私と彼は大宮とこちらを互いに行き来して、いつまで経っても尽きることのない会話を、たまに互いに涙を流しながら、でもいつもは手なんか叩いて、下品に大袈裟に笑ってみせながら。

そんな感じで楽しんでいる。

 

そしていい話の終わり方じゃなくてごめんなさい。

彼も歪んだ性癖を持っているから私が喜んでくれるならと、毎回汚物を提供してくれる。

そんな仲。

 

親友でもなく、セフレでもない。

互いに裸を見せ合った事も無ければ、抱き合った事もない。

けどもう少し、こういう仲が続いてもいいなと思う。

彼が嫌じゃなければだけど。